って
『おい、ポンコツだとよ、今の、番が見つけたっていうから終電車にやられたらしいナ』
 と腐ったような顔をしていうのです。このポンコツというのは我々鉄道屋仲間の言葉で轢死《れきし》のことをいうのですが、私も昨年学校を卒《で》てすぐ鉄道の試験を受け、幸い合格はしたもののどういう関係かさんざ焦《じら》された揚句《あげく》、採用になったのは秋でしたので、この梅雨の季節を迎えるのにはまだ半年ばかりしか経っていなかったのです。しかしそれでも私の仕事が保線区であったせいか既に三四回のポンコツに行きあっていました。中でも一番凄かったのは矢張り若い女の時で、これは覚悟の飛込みだったそうですが、そのせいか、ひどく鮮かにやられていました。丁度太腿のつけ根と首とを轢《ひ》かれ、両脚はその腿のつけ根のところでペラペラな皮一枚でつながっていて、うねうねと伸びているのを見た時は、そしてそうなってまで右の手で着物の裾をしっかり抑えているのを見た時は、我れながらよくも独りで詰所までやって来たと、後からも思ったほどでした。その二三日は飯もろくに食えずに舌の根がひりひりするほど唾《つば》ばかり吐き散らしていたものです―
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