―、も一つこれは聞いた話なのですが矢張り十八九という若い女のポンコツがあって、検死も済んでさあバラバラになった体を集めてみたがどうも右の手が足りない、いくらその辺を数丁にも亘《わた》って調べても見当らないというのです。まさか野良犬が咥《くわ》えて行ったのでもあるまいがというので色々調べて見ましたら既に車庫に廻されていたその轢いた電車の車輪の一つを、その掌《てのひら》だけの手袋のような手で、シッカリ握っていた――実に怕《こわ》かったそうです。検車係が仕事用の軍手が置いてあるのかと思って、ひょいと取ろうとしたら関節からすっぽり抜けた若い女の掌で、その血まみれの口から真白い腱《けん》が二三寸ばかりも抜け出ていたそうで、苦しまぎれに、はっし[#「はっし」に傍点]と車輪を掴《つか》んだんでしょうがそれを取るのに指一本一本を拝むようにやっと取ったといいますから凄い話です。
 ――どうも大分横道にそれてしまいましたが……で、その夜明けのポンコツの知らせを受けて私と吉村君とそれから矢張《やは》り泊り番だった工夫の三人ばかりとで取敢《とりあえ》ずガソリンカーで現場へ出掛けたのです。そこは中央線の東中野を
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