るのでした。とその時私はいやあなものを見てしまったのです。その首のそばに四五尺もあるような青大将がずたずたに轢き切られているのです。ギクリとした途端に自分でも頭から血がスーッと引いて行ったのを憶《おぼ》えています。吉村君や他の工夫たちもすぐそれに気づいたのでしょう。わざと眼《め》を外《そ》らしているらしいのです――。一人の工夫がかさかさな唇をぱくぱくさせていましたが
『おッ、おッかあ、怨《うら》むなよ』
 と口走りました。急所をつかれたようにハッとして見合せた皆んなの顔は、どれもこれも紙のように白けてそこに転がっている倉さんの生首ソックリでした。
 ――私たちが詰所に帰ってやっと一と息入れていますと、ゆうべの終電車とけさの一番との運転手の話が伝わって来ました。それによるとけさの一番の運転手は自分が通った時はもうその死骸があった。たしかに死骸になっていた。それは二三間手前でわざわざ車を止めてレールから傍《かたわ》らにひっぱって下《おろ》したのだから間違いないというし、車掌もそれを証言するそうです。
 ところが終電車の運転手はたしかにそんなポンコツはなかったというのです。第一あそこは丁度森
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