のじゃないかと思われるほど見事に太腿と首とが轢き切られているのです。
『首がねえな――』そういって一人が小腰《こごし》を跼《かが》めて見ていましたが、
『あ、あんなとこに立ってやがる』
 そういった方を見ると成程《なるほど》首だけがまるで置物のように道床《どうしょう》の砂利の上にちょこんと立っているのです。
『ちぇッ』
 と舌打ちした工夫がその首を拾いに行きましたが、いきなり
『ギェッ』
 というような声をもらすと、泳ぐような恰好をして馳戻《かけもど》って来て
『クク倉さんだ……』
 がたがた顫《ふる》える手でその首を指さすのです。
『えっ、倉さん?』
 皆んなは思わず襟《えり》くびに流込んだ霧雨の雫《しずく》をヒヤリと感じて顔を見合せました。丁度いまもその話が出たばかりですし倔強《くっきょう》な工夫たちもさっと顔が蒼白《あおじ》らんでしまいました。しばらくしてからやっと皆んなでかたまってその首を拾いに行ったんですが、なるほどその首は倉さんでした。而《しか》もポンコツの苦しみというよりも其の首だけ仮面《マスク》のような顔には何を見たのかゾッとするような恐怖の色が刻込《きざみこ》まれてい
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