去年私がまだ来る前に飛込自殺をしたということで、これは私も以前から聞き知っていたことです。又余談になりましたが、――ガソリンカーがびゅうびゅう駛《はし》って行きます。線路の両側に鬱蒼《うっそう》と続いていた森が、突然ぱったりと途絶《とだ》えると定規で引いたような直線レールが※[#「二点しんにょう+向」、第3水準1−92−55]《はる》か多摩川の方に白々《しらじら》と濡れて続いています。急に森を抜出たせいか吹曝《ふきざら》しの車の上にいると霧雨が肌にまで沁透《しみとお》って来てゾクゾクした寒さに襲われて来ました。と、さっきの工夫がいうのです。
『いけねえよ、おい、今日は十七日じゃねえか、え、倉さんのおッかあがポンコツ食った日だぜ……』
誰も返事をしませんでした。ところが吉村君が私の耳元で
『ポンコツ食ったっていうのはこの辺なんだぜ』
そう囁《ささや》いたかと思うと、急にガソリンカーがぐーっとスピードを落して、止ってしまったのです。思わず伸上って見ると二三間先の線路のわきに黒っぽい着物を着た男が、ごろんと転がっていました。皆んなが無言でぞろぞろ行って見ますと、まるでレールの上に寝ていた
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