からといって、そういう風に取られては困るんだがね、例えば長田君なんかも自分が加わっていないことだいぶ不満に思っていたようだったけれど、しかしここの研究所を空《から》にしてしまって皆んな支所へ行ってしまうというのはどうだろう――
老所長は、窓から射込んで来る陽射しに、銀髪をきらきらと輝かせながら、そういう風に話していた。
――支所はあくまでも支所だ、一応精鋭をすぐって行くことは当然だけれど、しかしだからといって全部行ってしまっては困る、昭南島がいかに便利だとはいっても東京をそこに移すわけにはいかんようにね、東京は地理的には少し遠くはあっても、矢張りここで大東亜に号令すべきところだからね、同じことさ、ボルネオ支所にしたって実験的にはここよりも便利かも知れない、いや便利だからこそあそこを選んだんだが、しかし総括的な業績は、矢張り磁気学研究所としてここで号令し纏めなければならんと思うね、そのためには君とか長田君といったような人まで行ってしまうことはどうだろう、勿論出張は差支ない、事情の許すかぎりどんどん行って貰うつもりだ。大東亜の中心は矢張り東京だ、誰でも知っているそれだけのことさ――
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