ていたのであろうが、突然「ボルネオに行く」と申し渡されて昂奮に取りつかれていたみち子に、ただ気づかれぬだけだったのかも知れない――。そして木曾は、あの親友僚一によく似た貌《かお》立ちのみち子が、いつになく上気した顔を真正面に向けているのを見ると、却って、やっと自然に微笑が浮ぶほど、落着きを取り戻して来た。
「木曾さん、所長が呼んでますよ――」
 遽《あわた》だしくはいって来た助手の村尾健治が、ドアーを開けながら、いつになく弾んだ声でいった。
「ああ、そう――。村尾君もボルネオ行きだったね」
「はあ、お蔭様で……」
 村尾もまた、どう怺《こら》えても込上《こみあが》って来てしまうらしい微笑を、口のへりに顫《ふる》わせていた。
「まあ、しっかりやってくれたまえよ、石井さんも行くんだ、よろしく頼むよ」
「はあ、あの……」
「はっは」
 木曾は、笑った自分の頬が、ひくりと痙攣したのであわてて立上った。そして顔を外向けるようにしてドアーを潜《くぐ》って行った。

       三

 ――今度のボルネオ支所開設のために色々手配してくれたことは感謝するよ、しかし君がここに止《とど》まることになった
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