まったのです。愕くべきことです、純粋な水銀が、得体の知れぬものになってしまったのです。もっと詳しく申しましょう、この異変を最初に見つけたのは石井さんでした、硝子盆の中の一粒の水銀(マッチの頭ぐらいと思って下さい)の色が、なんだ変だといい出したのです、そして、ひょいと抓《つま》んで見せました、(水銀は表面張力が強いですから抓んだことには愕きませんでしたが)しかしその上、あら、こんなに堅くなってしまったわ、といってギュッと押潰すように抓んで見せたのですが、この水銀はびくともしないのです、しかもです、テーブルの上に落すと、その水銀はカチ、カチ、カチと堅い音をたてて弾むのです、僕がぎょっとしている間に、石井さんは手許にあった金槌《かなづち》で叩き潰してしまいました、そしてこの水銀は茶色の粉となってしまいました。なんという愕くべきことでしょう。僕はいそいで他の水銀を調べました、しかしその他の水銀には一向変化が認められません、この粉砕された一粒だけが変質しているのです。
 この怪異は何を物語っているのか。……僕はこの前にお手紙した宇宙爆撃の恐怖が裏書きされたように思われます。つまりこの水銀の中の電
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