を歪めたまま通り抜けた。そして隣りの自分の部屋のドアーを、突飛ばすようにして潜《くぐ》り、デスクの前の廻転椅子にドサリと腰をおろした。デスクに肘をのせ、頭を抱《かか》えるようにして眼をつぶると、外庭の植込みの方で何やら話しあっている所員たちの弾んだ話声が途切れ途切れに聞えていた。
「あの、どうかなさったんですか、木曾さん……」
「エ?」
 誰もいないと思っていた木曾は、その突然の声に、ぎょっとして振り向いた。
「ご気分でも……」
 そういって、心持ちくびをかしげ、細い眉をしかめて立っていたのは、思いがけなかった助手の石井みち子だった。
「なんだ、石井さんがここにいたのか……、今の、所長の話を聞いたかね」
「えっ」
「あ、そうそう、石井さんも行く方《ほう》だったね」
「はあ――、でも私なんかに勤まりますかしら」
「大丈夫だよ、あんた[#「あんた」に傍点]ならきっとしっかりやってくれる……、あんた[#「あんた」に傍点]に行かれるのは残念だけれど、しかしまあそんなことはいってられないからね」
「……でも、木曾さんはいらっしゃいませんのね、どうしたんでしょう」
「いやあ僕なんか……、留守軍だよ
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