無沙汰いたしました。出発の際にはわざわざお見送り下さいまして恐れ入りました。もっと早く、お手紙いたしたかったのですが、馴れぬ土地にはじめての旅、しかも始終仕事のことを考えていなければなりませんでしたため、遅れてしまって申訳ございません、お許し下さいませ。
 けれども、出先きの方々の御尽力で、思いのほか順調にまいり、当研究所ボルネオ支所の仕事ももうぽつぽつ始められるようになりましたからどうぞ御安心下さいませ。マングローブの繁るボルネオをはじめて見ました時は、なんとも口では申し上げられません気持でした、当支所はポンチャナクからカプアス河を、薪をたく川蒸気に乗って四日目につくシンタンの近くにございます、四月と十月の季節風交替期のほかは雨も少く健康地だといわれましたけれど、ほんとうに、こんなに住みよい所とは思いませんでした、地を蔽う熱帯樹林は、類人猿の住家《すみか》だそうでございますが、まだ、この眼で見る機会はございません、ダイヤ族の首狩も、ダイヤ族は島の奥におりますそうですし、私たちには関係もなさそうでございます、(あまり関係があっては困りますけど)。とにかく一同とても元気だということをお伝
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