来ると、木曾は、又しみじみと取りのこされた感じに襲われて来た。頭数《あたまかず》からいえば、三分の一ほどの減り方なのに、それでいて研究所全体が、ガランとしてしまったような淋しさだった。実験室で、ぼつぼつ実験に取りかかっている助手たちの姿にも、気のせいか一向に意気が上らないようにも思われた。
 これではいけない、と思う一方、木曾自身にも残った所員たちの気持がわかるような気もし、強《し》いて注意を与える気にもなれなかった。これは支所行きの人選を、極く内々ではあったけれど、自分がしたのだという負《ひ》け目のようなものもあったし、それと同時にはまた、そのためには自分が残ってよかったという安堵に似たものもあった。木曾は、ガランとした実験室で、黙々として報告書の方眼紙に、実験特性曲線をマークしている残留所員たちの後姿を、黙って見つめていた。そしてたまに所員が自分の意見を求めて来た時などには、自分でも愕くほど大きな声を出したり、わざと笑って見せたりするのだった。
 ボルネオ支所から、出発後二ヶ月目も終ろうとする頃になって、はじめての私信が届けられた。
 石井みち子から木曾礼二郎あての私信。
 ――ご
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