うもありませんし、病気をされることが一番つまらない無駄なことですものね……それが結局皆さんの研究に、直接ではなくてもお手伝い出来たことになりますもの」
「なるほど……」
 木曾は、この石井みち子を、今度のボルネオ行きの人選に加えて置いたことを、矢張り正しかったことと確信した。
 ともすれば、熱狂的になり易い若い所員たち(仕事の重大であるということを自覚すればするほど)の中に、この優しくしかも折にふれて男まさりの意志を示すみち子を加えて置いたということは、何んとなく、自分の打った釘が一本きいたことを知った時のように、満足であった。昂奮すると、紅潮せずにむしろ顔が蒼白となる村尾が、あの発表の日以来、殊に蒼白い顔をしているのを見ると、余計にそれが思われるのであった。

       四

 なんだか落着かない忙しさの中に、ボルネオ行きの所員たちが立って行った。発表されてから一ト月ほどの予猶など、瞬く間に過ぎてしまって、ただわけもなく遽《あわただ》しさの中に、若い所員たちがゴソッと立って行ってしまった感じだった。
 所員たちが行ってしまってから、二三日中はそうでもなかったけれど、一週間も立って
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