あわてて引返しはじめた。が、ものの一分とたたないうちに、さっきの柿の木のところで、真正面から進んで来る男にばったりと行合ってしまった。
(見たような男だ――)
この男だけは、普通の大きさだった。何んとなくホッとすると同時に、そうだ、さっき後《あと》から歩いて来た男だ、と思いついた。
狭い草の道で、真正面に向合ったその男は、不精髭のせいか年齢《とし》の見当もはっきりしない顔つきだったけれど、思いがけず人がよさそうに、にっこりと笑うと
「何かだいぶ愕かれた様子ですな、はっはっは」
「…………」
「はっははは、『火星の果実』はいかがですか、お気に召したら一つあがって見て下さい」
そういって、さもあたりまえのように、自分の頭ほどもある柿の実を指差した。
「か、火星の果実――?」
「左様、進化した果実です」
「…………」
まるで大村たちの胸の底を見ぬくように、平然として、火星の果実など、奇妙なことをいうこの男は、一体何物であろうか――。
しかし大村は、呆然としながらも、火星と聞いて思わず耳を欹《そばだ》てた。
「とにかく私の家までいらっしゃいませんか、ゆっくりと火星の果実の話をしましょ
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