火星の魔術師
蘭郁二郎

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     高原の秋

「いい空気だなア――」
 英二はそういって、小鼻をびくびくさせ、両の手を野球の投手のように思い切り振廻した。
「うん。まったく澄み切ってるからね、――どうだい矢ッ張り来てよかったろう、たまにこういうところに来るのも、なんともいえん気持じゃないか」
 大村昌作は、あまり気のすすまなかったらしい英二を、勧誘これつとめた挙句、やっとこの、いささか季節はずれの高原に引っ張って来た手前、どうやら彼が気に入った様子に、何よりも先ずホッとした。
「そういわれると困るな」
 英二がすぐ振り向いて
「何しろここまで来ると空気以外に褒めもんがないんですからね」
「まあ、そういうなよ、今年は十五年ぶりで火星が近づいているんだ、この空気の澄んでいる高原は、火星観測には持って来いなんだよ」
「そりゃそうかも知れんけど……、その辺を一
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