うや、如何《いかが》です?」
その男は、落着いた、幅のある声であった。
「何処、でしょうか。あまり時間もないんですが――」
「いや、ついこの先きですよ、ほんの荒屋《あばらや》ですが」
「そうですね」
大村は、一寸英二の顔を見かえして
「そうですか、じゃ一寸お邪魔しましょうか……」
その男は、もう大村たち二人が、来るものと決めてしまっているように、先に立ってすたすたと歩き出していた。
火星の魔術師
そして、また例の化物畠のわきを通り抜け、その向うのこんもりと茂った常磐木《ときわぎ》の森の中の道を行くと、すぐ眼の前が展《ひら》けて、其処に、その森を自然の生垣にした一軒の藁葺《わらぶき》の農家が、ぽつんと建っていた。
案内されるままについて行くと、その藁葺の農家は、なかはすっかり洋風に造りかえられてあって、椅子やテーブルが設《しつら》えてある。ちょっと地方の新しがり屋――といったような感じの部屋だった。尤もそれはほんの最初だけの感じであって、すぐそんな上滑《うわすべ》りの気持は棄てなければならなかったけれど……。
志賀健吉と名乗るその男は、こうして見ていると、初め中
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