世界ではない。
その筈なのに、ふと気がついて見廻したあたりの様子は、何んとも得体の知れぬ、とてもこの世のものとは思われぬ――つまり想像し難い別世界の有様なのであった。
化物果実
「昌作さん――」
「なんだい英ちゃん――」
二人は、無意味にお互いを呼びあっただけで、あとが続かなかった。
火星の話が、なんだか気味の悪い生物の話になっていたせいばかりではなく、このあたりの様子は、とにかく断じて普通の眺めではなかった。
丁度、大村の話が火星の進化した植物の話になって、火星にももし栗の木や柿の木があったとしたら……と指差した傍らの栗の木が、まず第一に気のついたはじめだった。
というのは、そのすくすくと伸びた栗の木の枝には、なんと五寸釘のような棘《とげ》をもったお祭り提灯のような巨大な毬《いが》が、枝も撓《たわわ》に成っているのである。中にはすでに口を開けて、炭団《たどん》のように大きな栗の実が、いまにも澪《こぼ》れ落ちそうに覗いてさえいるのだ。いや、それだけならばまだいい。
その少しさきにある柿の木などは、これこそ見馴《みなれ》ぬせいか見事を通り越して、気味が悪いという
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