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× ×
その夜の未明に、星あかりの草道を一散に行く二人があった。
大村と英二だった。始発の上り列車をとらえるために、夢中で歩いているのだ。――大村は、誠子の顔を思い出した。誠子が二人を必死にゆり起してくれたのだ。
「早く、早く逃げて下さい、どんな立派な実験だってあなた方にもしものことがあったら大変です、逃げて下さい、兄のお茶にも同じ眠り薬を入れて置きましたから、もうしばらくは大丈夫と思いますけど」
大村は、ふらふらと立ち上った。しかし、眼の前のテーブルに、どんよりとした液体を容れた瓶や、注射器などが置かれてあるのに気がつくと、さっきの不気味な言葉と思い合せ、睡気《ねむけ》など、水を浴びたように抜け落ちて行った。
「ありがとう、しかしぼく達を逃がしたらあなたが困りませんか」
「いいえ、私なんか……」
「でも、もしかあなたが、あの危険な実験の犠牲になるようなことは――」
「いいんですの、まさか兄妹ですし……」
そう、顔をそむけていった、星明りの中に夕顔のように白かった誠子の顔が忘れられなかった。
大村は、歩きながらも、幾度か振りかえった。しかし結局無駄
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