うだった。

     火星人

「――それにしてもですねえ、火星の植物は丁度こんな具合かも知れませんよ、地球だってこれから何百万何千万年の後には、自然に進化してこんな果物が実っているかも知れません、地球よりもずっと空気の薄い、太陽の弱い、しかも水の不自由なところに、地球から青々と見えるまで茂っている火星の草や木は、きっとこんな風に染色体の多い、優れたものになっているんじゃないでしょうか、……そういえば自然が何千万年かかってやった進化を、あなたはタッタ数年間でやってのけたわけですね」
 話に夢中になっているうちに、いつの間にか秋の陽は落ちて、庭先きの杉の木の上には、赤い火星がいつもよりも一際輝き増しかかっていた。大村も英二も、火星を覗きにかけつける筈になっていた天文台のことも忘れ、夕闇に浮んだ窓辺の向日葵《ひまわり》をしのぐ巨大な菊の花に見入っていた。
 都会の騒音をはなれ、久しぶりのこの高原の静けさにうっとりとしてもう椅子を立つのすら大儀になってしまったのだ……。
 ――ハッと気がつくと、いつの間にか志賀健吉の骨ばった腕が、しっかりと椅子のうしろを掴み、のしかかるように髭だらけの顔が
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