なんですよ」
「少しばかりの改良――といわれるけれど、本当はその仕事が実に大変なことなんでしょう、そんなに謙遜《へりくだ》ることはありませんよ、絶対ありません、とにかくこれだけ出来ればすばらしい成功です、寧ろ大いに自慢し宣伝した方が、国家のためだと思いますね」
大村は、いつか膝をのり出していた。英二にしても全く同感だった。同じ広さの畠から段違いに多量な、しかも優秀な収穫が得られるということは、殊に限られた畠しかもたぬ日本にとって正《まさ》に画期的な、大発明といっていいであろう。
志賀健吉は、熱心にほめる大村たちの顔を面映《おもはゆ》そうに見守っていた。
「とにかくこんな大発明を遠慮することなんかあるもんですか、染色体がどうのこうのなんていうから、ややっこしくなるんです。そんな理屈はぬきにして、どうです一つ『火星の果実』という名前で大いに売出して御覧なさい」
「ありがとう……、そういって下さるとやっと私にも自信がついて来ましたよ、仰言《おっしゃ》る通り議論よりかモノですからね……」
健吉は、傍らの美しい妹と顔を見合せて微笑んだ。永年の苦心がやっと酬《むく》いられた人のように、愉しそ
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