生している小麦の染色体は十四ですが、私たちが食用にするような栽培されている小麦はその三倍の四十二です、それから野苺《のいちご》は十四ですが私たちが食べるような苺はその四倍の五十六、こんな風に、つまり染色体の数が多いと同じ苺なら苺でも優れているんです、例えば育ちが良いとか、寒暑に耐えるとか……」
「なるほどね、そうすると、何んとかして染色体とやらの数を多くすれば、優れた作物が出来る、というわけですね」
「そうです、そう思っていいでしょう。だからもし人工的に染色体の数を多くしてやることが出来たら、定めし立派な作物が出来るだろう……というわけですね」
「じゃ志賀さんがその方法を発見された、というんですか」
大村は、そういいながら、ふと又さっきの庭先きの菊に眼をやった。
「いや私というわけじゃありませんよ。つい最近外国でアルカロイド剤の一種を使って、すでに非常な成功を見せているんです。こいつは簡単な方法で煙草でも玉蜀黍《とうもろこし》でも大成功、金盞花《きんせんか》という花では、この薬を使って直径が普通の倍もある見事な花を咲かせたそうです――、ただ私はそれに少しばかりの改良を加えたまでのこと
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