てその中に顕微鏡で見られる染色体というものが幾つかはいっているんです」
「なるほど、それがどうかしたんですか」
「それですよ、この染色体という奴が問題なんです。これは犬でも菊でもその種類によって数が必ずきまっているんです。例えば百合《ゆり》が二十四で犬が二十、人間なら男が四十七で女は四十八というように……」
 英二は、話の間にちらりと大村の顔を偸見《ぬすみみ》た。志賀健吉が突然妙な話をはじめたのが、どういう意味かサッパリ見当がつかなかったのだ。第一、染色体なんぞというものは見たこともないし聞いたこともない――。そんなことよりも何故あの見事に実った『火星の果物』のことをいわないのであろうか。
「退屈ですか……」
 健吉も、ちらりと眼をやって英二の顔色を読み取ると
「でも、これだけはいって置かないと、これからの私の話が、まるで嘘っぱちのようになってしまうんです。村の人達もここまでいうと大抵逃げ出してしまうんですよ」
 そういって、苦笑を洩らした。英二は、一寸顔をしかめていた。
「ところが、ここにとても面白いことがあるんですよ」
 志賀健吉は、人の気持を誘うような眼をして、
「雑草のように野
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