も、ジッと黙っていた。
「信用しますとも、尠《すくな》くともぼくは、自分の眼とあなた方を信用しますよ」
大村は、思わず『あなた方』といってしまってから、すぐ
「その発明がどんな方法かは知りませんが、とにかく大発明です、農芸に大革命を起させる、食糧問題も一挙に解決させる大発明ですね――」
「そうですか、ほんとにそう思ってくれますか、しかもその方法たるやとても簡単なことなんです。これは肥料なんかとはそう関係ありません。高価《たか》い肥料もフンダンに使わなければならんような、それでいて草や木がその養分を吸い上げてくれるのを待っているような、そんな旧式な、そんな消極的な農芸じゃないんです。もっと茄子なら茄子、麦なら麦の体質を改造してかかる積極的な方法なんですよ」
喋べりながら、健吉の不精髭に埋《うず》もれた顔は、生々と輝いて来た。
一足飛び進化
「あなた方は、染色体というものをご存知ですか」
志賀健吉は、暁《あかつき》の袋から一本を抓《つま》み出すと、愉しそうに火を点けた。
「染色体――?」
「そうです染色体です、動物でも植物でもこれはすべて沢山の細胞から出来ています、そし
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