、そう銘《めい》打っても一向差支えないと思いますね、――お蔭でいい商標を思いつきましたよ」
「すると、あれは皆な志賀さんが作られたんですか」
「そうですとも。あなた方は話に気をとられて、志賀農園入口という立札に気づかないで来てしまったんでしょう。さもなければ村の人達に気狂いとか、魔術師とかいわれて白眼で見られているこの農園に、悠々と這入《はい》って来られないでしょうからね」
「いや、僕たちはここに来たばかりで、そんなことは少しも聞いていませんでしたよ、しかし……」
(しかし、あんな巨大な柿や胡瓜や菊までが、果して作れるものだろうか……)
そう、口の縁《へり》まで出かかったのだけれど、現に自分達はそれを見て蒼くなるほど愕いたのに、今更疑うわけには行かなかった。
――なる程、彼は魔術師だ。
「しかし、出来る筈がない――といわれるつもりなんでしょう、私にもよくわかっていますよ、誰だって話だけなら信用しないに決っています。村の人達は実物を見ても、尚まやかし物を見せつけられたように頷《うなず》こうとはしないんですからね」
志賀健吉の眼には悲愁といったような色が流れた。傍らにいる彼の美しい妹
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