うらやま》しそうに、眼の玉だけで見えなくなるまで見送るのであった。マダム丘子は、そんな時、わざと活溌に廊下を歩き、「オハヨウー」と大きな声で看護婦や、顔見知りの患者に呼びかけるのだ。
 医局に行ってみると、もう四五人の人が来ていて、銘々肌ぬぎになって順を待っていた。
「どうぞ……」
「そう、じゃお先きに……」
 マダム丘子は、するっと衣紋《えもん》を抜いて、副院長の前の椅子にかけた。
「いかがです」
「別に……」
 きまり切った会話しかなかった。成河《なりかわ》副院長は、懶《ものう》げにカルテを流し見て聴診器を耳に差込んだ。
 何気なくその動作を、ぼんやり見ていた私は、その時、はっと、息をのんだのだ。
 今日は場所の加減かマダムの上半身の裸像が目の前にあり、挑発するようにクローズアップされたその丘子の胸は結核患者《テーベー》とは思われぬほど、逞しい隆起を持っていた。体全体露を含んだクリーム色の絹で覆われているのではないか、と思われるほど、キメの細かい柔らかな皮膚であった、その上、逆光線のせいか、私のいるところからは恰度その乳房一面に、金糸のような毳毛《うぶげ》が生えてい、両の隆起の真ン
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