虻[#「虻」は「蠢」の「春」に代えて「亡」、第3水準1−91−58]の囁き
――肺病の唄――
蘭郁二郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)暁風《あさかぜ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)青木|雄麗《ゆうれい》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「蠢」の「春」に代えて「亡」、第3水準1−91−58]
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     一、暁方は森の匂いがする

 六月の爽やかな暁風《あさかぜ》が、私の微動もしない頬を撫《なで》た。私はサッキから眼を覚ましているのである。
 この湘南の「海浜サナトリウム」の全景は、しずしずと今、初夏の光芒の中に、露出されようとしている。
 耳を、ジーッと澄ましても、何んの音もしない。向うの崖に亭々《ていてい》と聳える松の枝は、無言でゆれている。黄ばんだ白絹のカーテンはまるで立登るけむり[#「けむり」に傍点]か海草のように、ゆったりと、これまた音もなく朝風と戯れている。ただ一つ、あたり一面に、豊満な光線がサンサン
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