と降るような音が聴えるだけだ。
真白な天井・壁、真白なベッド、真白な影を写したテラテラした床……。
(寝覚めの、溜らない懶《ものう》さ……)
いつの間にか、又、瞼《まぶた》が合わさると、一年中開けっぱなしの窓から森を、あの深い森を、ずーっと分けて行くような匂いがした。
×
再び眼をあけると、どこか遠くの方で看護婦の立歩く気配がしていた。体をその儘《まま》に、眼の玉だけ動かしてみると、視界の端っこにあった時計が、六時半、を指していた。
私は、二三回軽く咳込むと、夜の間に溜った執拗《しつっこ》い痰《たん》を、忙しく舌の先きを動かして、ペッ、ペッ、と痰壺へ吐《はき》落し、プーンと立登って来るフォルマリンの匂いを嗅ぎながら注意深く吐落した一塊りの痰を観察すると、やっと安心してベッドに半身を起した。
――あいもかわらぬサナトリウムの日課が始まったのである。
六時起床、検温。七時朝食。九時――十一時(隔日)に診察。十二時検温、昼食。三時まで午睡。三時検温。五時半夕食。八時検温。九時消燈……。
この外に、なんにもすることがないのであった。恐らくこのサナトリウム建設以前から
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