、花模様の単衣《ひとえ》物に、寝たり起きたりするために兵古《へこ》帯を胸高に締めているのが、いかにも生々《ういうい》しく見え、その可愛いい唇は喀血のあとのように、鮮やかに濡れていて眼は大きな黒眼をもち、その上いかにも腺病質らしい長い睫毛《まつげ》を持っていた。いまはようやく病気も停止期にあるというけれど、消耗熱の名残りであろうか、両頬がかすかに紅潮して、透通った肌と美しい対照を見せていた。
その生々しい姿と、全然対蹠的なのがマダム丘子であった。爛熟し、妖しきまでに完成された女性には、一種異様な圧倒されるような、アクティヴな力のあることを感じた。私はこの二人の女性から、女性の美というものに二種あることを知った。諸口さんの嫋々《じょうじょう》とした、いってみれば古典的|静謐《せいひつ》の美に対して、マダム丘子のそれは烈々としてすべてを焼きつくす情獄の美鬼を思わせるものであった。
しかし私は、この二つの美に対して、どちらを主とすることも出来なかった、マダム丘子のその福々とした腕……それは真綿のように頸《くび》をしめ、最後の一滴までの生血を啜《すす》るかのような妖婦的美しさの中にも、又極め
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