、もう見るものが青々として病気なんか癒《なお》ってしまったようだ――だけどまあこの際ゆっくり休んでやるんだ、などと言っていた。
 そして最近は専門の絵の話から、何時《いつ》とはなくマダム丘子の病室にばかり入りびたって、「マダムの肖像画を描くんだ」といっていた。諸口さんはそれについて何かいやあな気持を感じているらしく、そんな素振りを私も感じないではないけれど、私は、
(人のことなんか――)
 とわざと知らん顔をしていた、というのはお察しの通り私は諸口さんが好きであったのだ。で、青木――丘子のコンビがハッキリすればするほど……私もねたましいとは思いながら……それでも却ってあとに残った私と諸口さんの二人が接近するであろう、と、いかにも肺病患者《テーベー》らしい卑劣な利己的な感情を、どこか心の隅にもっていたからである。
       ×
 今日も、食卓が片附られてしまってからも、四人はその儘で話しあっていた。その話は結局私の考えていたように、青木と丘子とが冗談まじりで話合っているのを、私と諸口さんが時々ぽつぽつと受答えする程度であった。
 諸口さんは女学校を出たばかりというから十八九であろうか
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