惚々《ほれぼれ》するほどの作品を残したかった……そして到々決心した、この世の中で最も尊いカンヴァス、つまり丘子の薄絹のような肌に、全精力を傾注した作品を描こうと決心した……幸い丘子もそれを許してくれた。「蔭の男」僕を象徴するように、お白粉《しろい》で刺青をした……お白粉で入れたやつ[#「やつ」に傍点]は、ふだんはわからないけれど風呂に這入ったり、酒をのんだりして皮膚が赤くなると仄々と白く浮出すのだ……恰度酒を飲むと昔の女を思い出すように……
僕はそこに白い蛾を彫った、毛むくじゃらな、むくむくと太った蛾を一つ……その蛾の胴の太さ、その毒粉をもったはねの厚さ……その毒々しい白蛾が彼女の内股にピッタリ吸ついて、あたかも生あるもののように、その太い胴に波打たせている……いやその蛾には生命があるのだ、この青木雄麗の生命の延長がそこに生きているのだ……。
ダガ、ダガ、最近になって、僕は極めて不愉快なものを感じたのだ、それはどうやら君が丘子に普通以上の関心を持ちはじめたらしいこと、そして尚いけないことは丘子にもどうやらそんな素振りが見えないでもないことだ。それはそう思う邪推とは言い切れないものがある
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