感するだろう、それは、マダム丘子を誰の妾だと思う。河村鉄造――つまり君の厳父の第二号なのだ。おそらく君は知るまい、しかし丘子の長い入院中タッタ一度でも彼女の家人が来たことがあるか、マダムと称しながら、そのハズを見たことがあるか、あるまい、それは君に逢うことを恐れているからだ。勿論君の厳父の方からはしばしば彼女が他のサナトリウムに変ることをすすめて来た、だが彼女は動かなかった……それはこの僕がいるからだ、も一つ君がいるからだ……君がここにいればこそ僕たちは何んの邪魔ものもなく恋を楽しむことが出来たんだ、人のいい杏二君、君は期せずして僕たちの恋の防波堤となってくれたのだ、ありがとう、厚く感謝する……ダガ矢ッ張り僕たちには悲しいカタストロフが待っていたんだ……、僕は最近再発に悩まされていた、僕の胸はもう数限りない毒虫にむしばみつくされようとしている……左様、僕たちの恋は眠っていた結核菌を呼起してしまったのだ……体温表の体温は、まるで僕のデタラメなのだ、僕のデタラメを雪ちゃんが正直に表につけていたに過ぎない……
僕は自分の残り尠《すくな》い命数を知るにつけても何か焦慮を覚えるのだ、僕は自身でも
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