わ……」
「ああそうか、悪い時やったもんだナ」
私もなんだか熱っぽいようだ。
体温計をこわごわ覗いてみると、七度五分。
(いけない……)
私は急に胸苦しさを感じて来た。
「僕も熱が出ちまったよ」
「皆さんですわ、……あんなのご覧になると……諸口さんなんかもうお部屋で真蒼になってお寝《やす》みですわよ」
そういわれてみると、いつの間にか諸口さんも、青木も姿がなかった、私は、
(気のせいだ)
と思いながらも、七度五分、七度五分と二三度呟くと、又ぐったり寝椅子に埋まってしまった。
雪ちゃんは、そっと私の足に毛布をかけて行った。
×
やがて蒼空が茜《あかね》のためになんとなく紫がかって来、水蒸気が仄々《ほのぼの》と裏の森から流れ出て来ると、夕食の鐘が、きょう一日、何事もなかったかのように、私のところにまで響き伝わって来た。
私は少しも空腹を覚えなかったけれど、半ば習慣的に寝椅子から立って、寝癖のついた後頭部《うしろ》を撫ぜながらサン・ルームの食堂に行った。
食堂へ行ってみると、いつもより心もち尖《とが》った顔をした諸口さんがタッタ一人、ぽつんと椅子にかけていた。
前へ
次へ
全30ページ中21ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
蘭 郁二郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング