一足外に出ると、外はクラクラするような明るさで鋭《とが》り切った神経の三人は、思わずよろよろっと立止ってしまった。太陽は腐《す》えた向日葵《ひまわり》のように青くさく脳天から滲透《しみとお》った。
×
崩れるように横臥椅子に寝てしまうと、誰も口をきかなかった。
目をつぶった儘、しいて気を静めようとしても、異様に昂ぶった神経は、却って泡立つ鮮血とあの気味の悪い“ユーモレスク”が思い出されるのだ、唄うまい、としてもその旋律が脈搏に乗って全身に囁きわたるのであった。
長いこと転々としてその昂ぶった神経を持てあましながら、ラッセルのように懶《ものう》い※[#「蠢」の「春」に代えて「亡」、第3水準1−91−58]《あぶ》の羽音を、目をつぶって聞いている中に、看護婦が廻って来た。
「三時ですわ、お熱は……」
「あ、忘れてた……今はかるよ、マダムどう――」
「はあ……」
私は体温計を脇の下に挿込みながら、その見習看護婦雪ちゃんの子供子供した顔から、
(マダムは悪いナ……)
と直感した。
「恰度、お体の悪い時なので、なかなか出血が止まらない、と先生が仰言《おっしゃ》ってました
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