て御覧なさいよ、あの体温表のカーヴとこのメロディと、ぴったり[#「ぴったり」に傍点]合うじゃないの、高低抑揚が、恰度あの波形の体温と吃驚《びっくり》するほど、ピッタリ合うじゃないの……」
「そう……そういえば成るほど……」
「あたし、この唄、唄うと、とても怖いの……だって
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密やかに慕寄る 慰めの唄
[#ここで字下げ終わり]
っていうところに来ると、急に調子が上るんですもん……熱でいえば四十度位になるんだわ……恰度あたしその高くなるところに来たような気がするの、きっと今にも熱がぐんぐん上るわ……」
こういってマダム丘子は、いつもの朗らかさに似合わぬ、荒涼とした淋しさを、美しい顔一杯に漾《ただよ》わすのであった。
(なァに、いくらか体の変調のせいだろうさ……)
と思いながらも、私自身、ついその気味の悪い唄を口吟《くちずさ》んでいた。成る程、その楽譜に踊るお玉杓子《たまじゃくし》のカーヴは正弦波《サインカーヴ》となって、体温表《カルテ》のカーヴと甚しい近似形をなしていた。
結核患者《テーベー》の妄想的不安と思いながらも、ハッキリ否定することの出来ぬこの患者独特
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