めた顔を、いつの間にかとりすまして、ツン、と蔑《さげす》むようにいった。
私は、
(ふふん……)
と口の中で嗤《わら》いながら、それでも真紅なダリヤの影が映ったのか、心もち紅潮して見える彼女の横顔を、却っていつもより美しいなと思った。
心もち上半身を起してみると、諸口さんの向うにマダム、その横臥椅子にぴったり寄りそうように青木の痩せた体をのせた椅子があった。二人とも目をつぶっていた。マダム丘子のツンと高い鼻の背に、露のような汗が載ってい、無闇やたらに明るい太陽が、あたり一面、陽炎《かげろう》のようにゆれていた。
ギーッと椅子がきしむと諸口さんも半身を起して、私の方に伸びながら、小さい声でいうのであった。
「あたし……なんだか心配になっちまったの……」
「なにが……」
「なにって……段々体が悪くなりそうで……ほんとよ……今にも急に熱が出そうな気がして仕様がないのよ……」
「バカな……そんな心配が熱を出すモトさ……あまりヒマだからだよ、そんなことを考えるより入道雲を見て、勝手な想像をした方が、ずっと体のためだぜ……」
「まア……」
彼女は一瞬びっくりしたような、堅い笑いを浮べたが
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