然同感の意を表せざるを得ない。けれども全体を読んでどれ丈けの共鳴を感じたかを省る時に、予は不幸にして『国民新聞』の広告が期待して居るが如き感動を与へられない事を自白せざるを得ない。本書を読んで得たる予の感情を卒直に云ふ事を許すならば、面白いには面白いが、反対する程の事もなし、賛成する程の事もなし、殆ど我々の現在の思想には関係のない、丸で違つた社会の産物に接するが如き感がある。よかれあしかれ、折角批評しようとしても興が湧かないので、自ら読者に背いて当初の約束を撤回するの外はない。
尤も此書を明治の初年より大正の初めに至る青年の思想の変遷史として見れば非常に面白い。第二章以下第八章に至る約四百頁、即ち本書の三分の二は、此史的記述に捧げられたものであつて、中に固より著者の考も多く説かれてあるけれども、大体に於て事実の記述である。第九章の英・独・米・露の説明も亦有益なる記述である。第一章と第十章とは相照応するもので、大正時代の記述であるが、著者の大正の青年に関する観察も大正時代に関する観察も大体に於て我々に教ゆる所少くない。斯う云つて見れば全部悉く我々の読んで益を得るもの多い訳であるが、然し
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