著者の期するが如き、今日の青年を啓導して新日本の真個忠良なる臣民たらしむるの経典たるを得るや否やは大に疑なきを得ない。何故かの説明は予輩にも十分に分らない。唯何となく斯く感ずる。何故かく感ずるかを実はいろいろ自分で考へて見た。十分なる答案はまだ得てゐないが、事によつたら老年の人に多く見る、所謂現代の社会並びに現代の青年に関する適当なる理解の欠如といふ事が其主なる原因をなして居るのではあるまいか。
 蘇峰先生に限つた事ではない、明治以前の教育に育つた多くの尊敬すべき我々の先輩は、動《やや》もすれば今日の青年に忠君愛国の念が薄らぎつゝあると云ふ。又国家について遠大なる志望が欠けて居ると云ふ。又は国家の強盛に直接の関係ある問題――例へば軍備問題の如き――に興味を感ずる事極めて薄いと云ふ。之は如何にも其通りで、此等の批難は今日の多数の青年に当嵌る。故に我々は今日の青年に忠君愛国の念を鼓吹し、其志望を遠大ならしむべきを勧め、殊に軍備上の義務の如きは之を光栄ある義務として尊重し、且つ進んで之に当らしめんとする先輩の苦衷を諒とする。此等の点を盛んに鼓吹し主張し論明するのは、今日の青年を啓導する一つの
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