た様な気がして、小供心に頼り無い沈んだ悲哀《かなしみ》が充満《いつぱい》に成つた。で、蚯蚓《みヽず》が土を出て炎天の砂の上をのさばる様に、かんかんと日の照る中《なか》を歩《ある》いてづぶ濡れに冷え切つた身体《からだ》なり心なりを燬《や》け附《つ》かせ度く成つたので、書院の庭の、此頃の旱《ひでり》に亀甲形《きつかふがた》に亀裂《ひヾ》の入《い》つた焼土《やけつち》を踏んで、空池《からいけ》の、日が目《め》を潰《つぶ》す計りに反射《はんしや》する、白い大きな白河石《しらかはいし》の橋の上に腰を下《おろ》した。
『阿母さんが死になさるのぢや無いか知ら。』
 ふつと斯《こん》な事が胸に浮んだ。今日に限つて特別に阿母さんの身体《からだ》が鉄色の銚子縮《てうしちヾみ》の単衣《ひとへ》の下に、ほつそりと、白い骨《ほね》計りに見えた様な気がする。『なあに。』と直ぐに打消したが、ぞつと寒く成つて身体《からだ》が慄《ふる》へた。次いで色々の感想が湧いて来る。
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
『家《うち》では阿母さんが一番気の毒だ。………併し阿父さんも、あんな羊羹色《ようかんいろ》のフロツクし
前へ 次へ
全34ページ中19ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 寛 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング