、よく阿母さんの言ふ事をお聞き。なんぼ貧乏な生活《くらし》をしても心は正直《しやうぢき》に持つんですよ。』
『はい。』
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『晃《あきら》兄《にい》さんの様に成つては仕様が無いわね、阿母さんの衣服《きもの》や頭《あたま》の物を何遍《なんべん》も持出して売飛ばしては、唯もう立派な身装《みなり》をする。こんな阿父さんも御着に成らん様な衣類《きるゐ》や、靴や時計を買つてさ。学問でもする事か、フルベツキさんに英吉利西の語《ことば》を習つても三月足らずで止《や》めて了《しま》ふし、何かなし若《わか》い娘さん達の中《なか》で野呂々々と遊んで居たい、肩上を取つたばかしの十八の子の所作《しよさ》ぢや無い。祟《たヽ》つてる御方《おかた》があつて為《な》さるのかも知らんけれど、あれでは今に他人様《ひとさま》の物に手を掛けて牢屋《ろうや》へ行く様な、よい親の耻晒《はぢさら》しに成るかも知れん。今度は阿父さんの財嚢《かみいれ》から沢山《たくさん》なお金《かね》、盲唖院の先生方《せんせいがた》の月給に差上げるお銭を持出して二|月《つき》も帰つて来ないんだもの。阿父さんは
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