《す》ませて、三歳《みつヽ》になる娘の子を脊《せな》に負《お》ひ乍ら、広い土間へ盥を入れて洗濯物《せんたくもの》をして居《ゐ》る。
『お早うでも無いぢや無いか。よく寝られて。昨夜《ゆうべ》は。』
『ふん、寝坊をしちやつた。阿父《おとう》さんは。』
『涼しい間《あひだ》にと云つてお出掛《でかけ》に成つたの。』
『阿母さん、昨日《きのふ》校長さんが君ん家《とこ》の阿父《おとう》さんは京の街《まち》で西洋の薬《くすり》や酒を売る店を出すんだつて、本当かて聞きましたよ。本当に其様《そんな》店を出すの。』
『阿父さんの事だから何を為さるか知れ無い。昔《むかし》から二言目《ふたことめ》には人民の為だもの。』
『今日は何処《どこ》へ入らしたの。』
『神戸の夷人《ゐじん》さん処《とこ》。委しい事は阿母さんなんかに被仰《おつしや》らないけれど、日本で初めて博覧会と云ふものを為《な》さるんだつて。』
『ふうん。』
『お前|御飯《ごはん》は何《ど》うする。』
『お昼と一処でいゝ。』
『ぢや然《さ》うお為《し》。其《それ》から阿母さんは今一枚洗つて、今日《けふ》は大原《おほはら》まで兄《にい》さん達の白衣《は
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