る。
そして又何時ものやうに、
愛着的な、優雅な、
細心な、
そして凛々《りり》しい表情と態度とが
おゝ我が友よ、僕をして
ナルシスの愛と美を想はせる。

三方を塞《ふさ》いだ、
天井の高い、
そして広々《ひろ/″\》とした画室《アトリエ》は
大岩窟の観がある。
そして大きな画架、
青い天鷺絨張りのモデル台、
卓《たく》、置暖炉《おきストオブ》、花瓶《はながめ》、
肱掛椅子《フオオトイユ》、いろ/\の椅子、
紙片、画布《トワル》、其等の物が雑然と人り乱れ、
麝香撫子と、絵具と、
酒と、テレピン油《ゆ》とが
匂ひの楽《がく》を奏《ジユエ》する中《なか》に、
壁から、隅々《すみ/″\》から、
友の描《か》いた
衣《きぬ》を脱がうとする女、
川に浴する女
仰臥の女、匍ふ女、
赤い髪の女、
太い腕《かひな》の女、
手紙を書く女、
編物をする女、
そして画架に書きさした赤い肌衣《コルサアジユ》の女、
其等の裸体、半裸体の女等と、
マントンの海岸、
ブルタアニユの「愛の森、」
ゲルンゼエ島の牧場、村道、岩の群《むれ》、
グレエの森、石橋、
其等の風景と、
赤い菊、赤い芍薬、
アネモネの花、薔薇、

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