かにさせる。
其れは悪るくない感じだ。
そして、第五の階段にさしかかると
僕の脚が少し重く、
僕の動悸が少し高く、
僕の呼吸が少し疾《はや》くなる。
すると、僕に潜在して居る日本的《にほんてき》突喊性《とツくわんせい》が
のつそりと眼を覚して、
殆ど一呼吸《ひといき》で、
足早にあとの二《ふた》つの階段を昇らせる。
今日も僕は同じ経過を取つた。
扉《とびら》の上から
海老茶色の鈴《すヾ》の索《さく》が下《さが》つて居る。
何時見ても
長い紐鶏頭《ひもけいとう》の花を吊《つる》したやうだ。
僕は太《ふと》い呼吸《いき》を気持《きもち》よく吐きながら、
静かに索《さく》を握《にぎ》つて二度引いた。
扉《とびら》が内から開《あ》いた。
「ボン・ジュウル、」
「ボン・ジュウル、」
「描《か》いて居るんぢやないの」、
「いいや、モデルが来ないから」、
二人は手を握《にぎ》つた。
友は何時《いつ》ものやうに、
薄地《うすぢ》の紺の仕事服《しごとふく》の上へ、
褪《さ》めて落ちついた緋《ひ》の色の大幅《おほはヾ》の襦子を
印度の袈裟のやうに、
希臘の衣《きぬ》のやうに、
左の肩から右の脇へ巻いて居
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