も愛する、
憎い敵は殺して仕舞ふ、
勝つた者は正《たゞ》しく誇る、
負けた者は復讎を企てる。
生《しやう》、老《ろう》、病《びやう》、死《し》は順当な流転だ、
花の開落だ、
そんな事を気にする習慣なんか持て居ない。
自然と生物とが同じ脈を搏《う》ち、
同じ魂《たましひ》と同じ意欲を持ち、
同じ生の力を張り詰めて動くばかりだ!
若し醇粋な人性《じんせい》を保留して居る彼等に、
羞耻《しうち》の道徳を説いて聞かせたなら、
彼等は目角《めかど》を立てて怒《おこ》るだらう、
そして云ふだらう、「大自然の心を知らない、
堕落した人間の余計な僻《ひが》みだ」と。
彼等は赤裸々で居る、
太陽が赤裸々で居る如くに!
そして、彼等が華やかな爪哇《ジヤワ》更紗の一片《いつぺん》で、
または新鮮な一枝《ひとえだ》の木の葉で、
人間の樹の中央《まんなか》につけた性《せい》の果《このみ》を蔽《おほ》ふのは、
礼儀でもなんでもない、
椰子が其果《そのみ》の核《かく》を殻皮《こくひ》の中《なか》に蔵《をさ》めて、
風雨と鳥獣の害を防ぐやうに、
彼等もまた貴い種《しゆ》の宮《みや》を、
敵と動物の害から護《まも》るの
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