十、二十の脚《あし》を柱《はしら》の様に立てて居る。
或樹《あるき》は扇形《あふぎがた》の騎士の兜《かぶと》を被《かぶ》り、
或樹《あるき》は細長い胴《どう》に真赤な海老《えび》の甲《かふ》を着けて居る。
或蛙《あるかへる》が牛の声で吼える。
或蛇《あるへび》が鈴を振る。
一尺の守宮《やもり》が人間に呼び掛け、
二丈の鰐が人間を餌《ゑ》にする。
人間は丸木舟の殻《から》に乗つて走《わし》る貝《かひ》だ。
猿は猩々の表情と姿で抱き合ふ人間だ。
春夏秋冬の区別もない、
植物は芽と葉と枯葉《かれは》と、
蕾と花と果《み》とを同時に持つて居る。
片端《かたはし》から熟《じく》して、枯れて、
片端から新しく生んで行く。
人間もさうだ!
手ぬるい夢や憧憬《あこがれ》や、
しちめんどうな瞑想《めいさう》や、
小賢《こざか》しい商量や、虚偽や、
馬鹿らしい後悔や追憶《おもひで》を必要とせずに生きて行く。
彼等は流転を流転の儘に受け入れる。
唯だ珍重するのは愛情だ、
労働だ、勝利の欲だ、
そして其等を讃美する芸術だ。
寝たくて寝る、
歌ひたくて歌ふ、
働きたくて働く、
踊りたくて踊る。
恋しい女は奪つて
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