その、やめて貰わんとなァ……」
「それが理由なんですか?」
「そうだよ。つまり、その、あんたの腕が禍いしたんだな。銀行《うち》の人達ァあんたの料理じゃ気に喰わん、とこういうのだよ。他に伝染しないうちに、あんたを追放しようとするんだね。ハハハハ……」
――喜劇も俗悪になるとみちゃいられないな――と、槇子は思った。併し、ともかく彼女は安堵した。自分一人の犠牲位、前々から覚悟している。
又、こうなるように、自分だけが外面《そと》で活動を続けてきたんだ。一本の指が切られたって、残った九本はやはり活躍するにきまっている。それに血管が作用してる限りは……
「一体、あんたはどういう気持で連盟とやらへ出入したり、研究会で喋べったりしなきゃならんのだね。いや、私はあんたの立場は一応領ける。併しだ、あんたのような優れた縹緻《きりょう》の御婦人が何もわざわざ労働者の中へ這入《はい》っていくにもあたるまい。あんた達は、空想化した奴等をみとるよ。もしも、ほんとに奴等の生活を覗いたら、あんた達は身慄いして逃げてしまうにきまってるよ。奴等ときたら、不品行で、無学で、不躾で、その上慾張りな豚のような代物さ。何も、
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