罠を跳び越える女
矢田津世子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)紙埃《かみぼこり》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)炭酸|瓦斯《ガス》の匍匐
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「口+盧」、461−上−6]《わらいごえ》
*:伏せ字
(例)ほんとの***になっちゃうって
−−
三階利札室は銃声のない戦場だ。
凄じい誰かの咳、猛烈な紙埃《かみぼこり》、白粉の鬱陶しい香《にお》いと捌口のない炭酸|瓦斯《ガス》の匍匐《ほふく》、
拇指《おやゆび》と人差指の多忙な債券調査、海綿の音高い悲鳴、野蛮な響きを撒きちらす鋏、撥《は》ね返るスタンプ、※[#「口+盧」、461−上−6]《わらいごえ》、ナンバアリングの律動的《リズミカル》な活動、騒々しい帳薄の開閉、大仰な溜息、金額を叫ぶソプラノ、算盤《そろばん》の激しい火花、ペン先きの競争的な流れ、それを追いかける吸い取り紙……
「ねえ、貸付けへすごいのが這入《はい》ったわ。見て? ナ※
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