と思ってね。」
「ホホホ……こんな料理は奥様方のなさることじゃこざいませんわ、第一指から先に染まってしまいますものね。……部長さん、貴方は、お退屈しのぎに私をわざわざ雑談にお呼びになりましたの。喫煙室にはお話の合う方もいらっしゃいますわ。欠勤している方もあるものですから、とても部屋が混雑してますの、御用件の向はそれだけですの?」
「成程、あんたは仲々と仕事に忠実だね。併し、私が暇をさしあげる。悠っくり此処で、話しましょう、相談するには、此処が一番静かでいい。」
「相談? 何のですか?」
 心臓の位置が前へとび出した。
「何ァに、その大したことじゃないよ。実は、その、あんたの係長からも話されたことなんだがね。その、あんたは染まり過ぎてるそうだな。つまりお料理の達人だそうだね。ほんとかい。いや、私は、私一個の意見としては、研究は個人個人の自由にまかせ度いのだが、どうも、そこの特高からやかましく忠告がくるのでな。何も好奇《ものずき》で注意人物を使用するにもあたらん、と、こういうようなわけで、ハハハハ、尤もなことを云うよ。それに、庶務部長や秘書からも内々話があったような次第でね、実に遺憾だが、
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