だな、その……」
閊《つか》えた言葉を茶と共に胃の腑へ戻してから、部長は柔かいハンカチで万遍なく口の囲りを撫でた。
しつこい香水に咽《むせ》て、槇子は立て続けに何度も咳入った。
「何だな、あんたは非常な勉強家だという評判じゃないですか。」
「左様でございますか。」
「左様ですか、って。ハハハハ、一体どの方面を主に勉強していられるかね?」
金縁眼鏡の中で、相手の眼が誇張してとぼけている。
「お料理に興味をもってますわ。一週間に一度ずつ、講習会に参りますの。」
「ほほう、私にも一度御馳走してくれんかな。今からお嫁入りの仕度とは殊勝な、どうだね、前川さん、この私の月下氷人じゃァ、ハハハハ、気に入らんというのかな。」
眼鏡を上下に揺すって、部長は笑って、笑って、馬のように息を切ると、やっと口を閉じた。「ところで、その講習会じゃ、赤い料理の造り方も教えるだろうがな。どんな味ですかね、そいつは?」
「トマトのお料理のこと仰有《おっしゃ》るんでしょう。とても酢っぱくて、貴方のお口に合いそうもありませんわ。」
「これはこれは……いや、その方法なりと教えて下されば、帰ってから家内へなりと伝えよう
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