とても難かしく、病める父と病める母が交る交る抱いて明しましたのも幾夜でしょう。太夫元からは鶴ちゃんの病状が病状故若し避病院へでもやられては興行をさし止められるから、とて医者にかけるのを拒まれたり、そのつらさといったら申し様もございません。
その上に、あね様、わたくしと鶴江の病気のみなればまだしもですが、肝心働き手の良人に寝つかれてしまっては……当分は体がほんものにならぬとみてとるや、今日《こんにち》の物価の高いのに親子三人を遊ばせて食わせておくのを怖れた座元は、何んたる無情でしょう、南那珂郡福島という地、日向の南のはずれ大隅と隣接する一寒村に我々を置き去りにし、自分らのみ鹿児島へと乗りこんでしまいました。
ああ、その時の心細さ、初めて入りこんだ土地風俗も分らぬ九州の南の端しに病める親子三人が残された時の心地お察し下さいませ。
良人は水に不慣れのため脚気みたようになり杖にすがらねば歩けず、わたくしは立ちくらみする程の貧血衰弱、鶴江は坐わる力なき程衰えて居ります有様は何んの罰か報いかと思われ、何度、親子心中をねがったかしれません。
耐えかねて再び父の許にすがってやりましたが、父から
前へ
次へ
全17ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
矢田 津世子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング