子の淹れた茶をちょっとおし頂くようにして飲んだ。またこのひとの探索癖が出たな、と紀久子は黙っていた。すると、飯尾さんは詰った煙管に気をとられたような風つきで火箸で雁首を掃除しはじめたが、今日は都合よく花屋にいい桔梗がありましてね、お母様は桔梗がお好きでしたから早速お上げしてまいりました、と何気なく話をそらした。
「それあ、母様およろこびでしょう」
 云いながら紀久子はふと、さっきの姉の話を飯尾さんにきかせてやってもいいような気になった。母にもつ感情の近さを飯尾さんに感じたからである。いま、母の話が出たので紀久子は思いがけずそれに気付いた。何かしら、姉からきいた話を飯尾さんに告げ口してやりたいような甘えかかった気もちが心の中に動いている。早く早く、とそれが急き立てる。どうせ知れる話なんだから――こう思ったので、
「そうそう飯尾さんにお話しようと思っていたけど」
 と切り出すと、火鉢へ屈んで煙草に火をつけていた飯尾さんは心もち緊張した面もちで眼をそばめるようにして紀久子を見あげた。その眼つきは母の癖であった。どういうものか、母が亡くなってから飯尾さんには母に似たものが出てきた。その立居、物
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