感じが強い。そして、姉の声をかりた父に自分が説き伏せられているような気がして、どうにも素直には頷けなかった。
「お父様もお年を召していらっしゃるし、静かなお話相手が欲しいのね」
 姉は気を詰めて話していたせいか、疲れた様子になった。それをみているとさっきの強腰なもの云いがいよいよ作りものの感じがして、姉が少しばかり気の毒になった。それで、
「お話相手なら飯尾さんがいてよ。少々賑やかですけど」
 と笑いかけると、
「飯尾さんじゃ、お父様がお可哀そうよ」
 と姉はつられて笑った。
 福が鮨の鉢をはこんで来た。
「お父様へはそのうちわたしからお話しますからね」
 姉は鮨を食べ終わると時計を気にしながらこう云い置いて皈《かえ》って行った。

     二

 間もなく、そこの表通りで麻布の奥様にお会いしました、と云って飯尾さんが戻って来た。手にした切り花を仏壇に供え、その前に坐って永いこと手を合せてから、これでお役目がすんだ、というような小ざっぱりとした顔つきで火鉢のはたへ坐りこんだ。
「麻布の奥様は何か御用でお越しでしたか。お皈りが大変お早かったこと」
 飯尾さんはこんなことを云いながら紀久
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